2-2号 (2013年12月)
- アルコール新法成立と本学会への期待 (樋口 進)
- 第 25 回日本依存神経精神科学会を終えて (大熊誠太郎)
- 年会報告:第 25 回学術総会を振り返る
- 2013 年度評議員会・総会議事録 (宮田久嗣)
- 2014 年度年会について (宮田久嗣)
- 学会印象記:CINP KL (石黒浩毅 原田隆之)
- CINP KL2013 若手優秀発表賞を受賞して (白坂知彦)
- 第 3 回柳田知司賞を受賞して (森 友久)
- 国際委員会発足の件 (高田孝二)
- 賞選考委員会より (樋口 進)
- アル法関連最新情報 (猪野亜朗 齋藤利和 堀井茂男)
- 書評:『新健康教育シリーズ エビデンスにもとづいた新・アルコールの害(最新改定版)』 (宮田久嗣)
- 施設紹介:肥前精神医療センター (杠 岳文)
- DSM-5 をめぐる話題(その 2) (宮田久嗣)
- 学会からのお知らせ・連絡事項
1. アルコール新法成立と本学会への期待
(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター)
今回は、もうこれ以上遅くなると印刷に間に合わないところまで、この原稿を待っていただきました。そうしたら、本日早朝に「アルコール健康障害対策基本法」が参議院本会議で可決・成立したというニュースが飛び込んできました。ニューズレター発刊の関係者には大変申し訳ないと思う半面、このタイミングの良さを一方で喜びました。我々アルコール関連問題の予防や治療に携わる者にとって、この日はまさに歴史的記念日だと思います。本法の制定を推進してこられた中谷元自民党副幹事長を初めとする多くの国会議員の先生方には心から御礼申し上げたいと思います。また、法制定にご協力された、全断連の皆様や各関係の皆様にも深謝申し上げたいと思います。
アスクの今成様は、アル法ネットの事務局長として、様々な活動の陣頭指揮をとってこられました。今朝いただいたメールに以下のように書いてありました。成立までの道のりが端的にまとめられ、心に沁み入る内容です。
2013 年12 月7 日0:25 参院本会議177 票、満票で可決しました。
全党合意をとるために、どれだけの方が地道な働きかけを続けたか。
酒類業界の理解を得、ときに邪険に扱われながらも地元議員に賛同を依頼してきたその成果が、ここにあります。WHO 世界戦略の採択が2010 年5 月。猪野先生が言い出した「今しかない。基本法をつくろう」という構想に多くの人がつながって、東日本大震災による 1 年の中断、政局の混乱、政権交代、そして今回の問題......波にのまれそうになりながら、成立にこぎつけたのです。
さあ、これからが本番ですよ。
「さあ、これからが本番」。我々は学会として何に貢献すればよいのでしょうか。これから、内閣府がこの法の実施計画を策定していくことになります。その中で、専門的意見や資料の提供を求められることになるでしょう。もちろん、それには全身全霊で協力していく必要があります。
一方で、学会には、依存のメカニズム解明、依存の診断ガイドライン策定、新たな治療法の確立など、多くの期待が寄せられています。しかし、わが国の現状を見ると、研究費は甚だ不十分で、研究者の数は少なく、そのため研究からのOUTPUT が限られています。研究費が増えれば、研究者が増え、研究の厚みが増します。「アルコールで文科省の科研費を取るのはほとんど不可能」は、多くの方の一致した見方です。この新法には、「研究の推進」が明記されており、研究費の増額という具体的な形でこれが計画に盛り込まれることを求めてゆく必要があります。
本学会は、基礎の先生方の力が充実しており、臨床からの知見の創出も望めます。また、理事長の卓見により、国際化も進んでいます。新法を後ろから支えていく力を持ち合わせており、その分期待も大きいと思います。今後、他の学会とも協調しながら、前に進んで行きましょう。
さて、若手の研究者育成は、依存・嗜癖研究の将来にとって最も重要です。本学会では、新たに若手奨励賞を設け、従来のCPDD に加えて、ISBRA 関連学会参加の若手に賞を授与することになりました。2014 年は、4 月に上海で行われるAPSAAR、および 6 月にシアトルで行われる ISBRA/RSA がこの対象となります。奮ってご応募ください(詳しくは本誌11 ページまたは本学会URL, http://www.jspra.jp/)。
最後に、2014 年10 月に、パシフィコ横浜で、国際嗜癖医学会(ISAM)が、国内3学会と同時期に開催されます。すでに、シンポジウムの募集は始まっています。国際化を推進する本学会から多くの「Proposal」を応募ください。詳しくはISAM2014のホームページ(http://www.congre.co.jp/isam2014/jpn/index.html)を参照ください。
2. 第 25 回日本依存神経精神科学会を終えて
会長 大熊誠太郎
(川崎医科大学薬理学教室 教授)
今年 10 月 3 日から 5 日にかけて、第 25 回日本依存神経精神科学会が岡山コンベンションセンターで開催されました。関係者の皆様のご協力に心から感謝申し上げます。
今年度も日本アルコール・薬物医学会(第 48 回アルコール薬物医学会総会)と本学会との合同開催であり、平成 25 年度アルコール薬物依存関連学会合同学術総会として岡山において開催されました。今年度は、クアラルンプールで開催された CINP と日程が重なってしまい参加者が少なくなるのではないかと危惧しておりましたが、本学会に参加するために、クアラルンプールから直接岡山まで来られる先生方が多く、本学会のアクティビティの高さを改めて感じる会となりました。2 日間にわたる合同学術総会を通じ、およそ 300 名にのぼる参加者があり、特別講演、シンポジウム、一般演題、ポスター発表など、どの講演もベテランの先生のみならず若手の先生を含め非常に活発な討論に参加して頂き、すべての会場が熱気に包まれておりました。
特別講演には、山口大学医学部長の坂井田功先生(代:寺井崇二先生)、全日本断酒連盟顧問の柳田公佑先生をお招きいたしました。寺井先生からは慢性持続性肝障害における骨髄細胞を用いた治療法を基礎研究から臨床研究まで発展させ、さらにより低侵襲な治療を試みた最先端研究報告をご紹介いただきました。また、柳田先生からは地域におけるアルコール依存症治療と題し、これまでに柳田先生が治療してきた経験談をもとに、実際の現場での様々な問題点等非常に興味深いお話をご紹介いただきました。
今学会では 11 のシンポジウムが組まれ、基礎研究、臨床研究を合わせて 49 講演が行われました。中枢神経や肝機能を中心とした基礎研究、ゲノム解析を中心としてテーラーメイド医療を目指した基礎研究、今後の活躍を期待される若手研究者による若手シンポジウム、アルコール医療の現状や実態調査を中心とした臨床研究など様々な演題が盛り込まれ、各シンポジウムすべてにおいて非常に熱心な討論が行われ、参加者の多くが最先端の研究を興味深く視聴している様子でした。
最終日には産業医単位取得講座として「職場におけるアルコール薬物問題の現状と対策」と題したシンポジウムが行われ、非会員の方々にも参加をいただき好評でした。また、一般演題およびポスターとして、合わせて 82演題の発表が行われ、近年社会問題となっている脱法ドラッグの臨床的な特徴および問題点を提起した演題など各施設の独自の研究にこれからの研究のヒントを得ながら興味深く拝聴させていただきました。
今大会では残念ながら CPDD 奨励賞受賞者はいませんでしたが、柳田賞は森友久先生(星薬科大学)が受賞され、10 月 5 日に受賞講演が行われました。講演内容はシグマ受容体を中心に、その機能的役割と薬物依存への関連性を様々な角度から多種多様な手法を用いて検討を行っており、非常に洗練された講演であり、興味深く拝聴させていただきました。
懇親会では、岡山の銘酒(御前酒)や山口の銘酒(獺祭)を中心に日本酒、焼酎等の特別コーナーを設けまして、理事長の齋藤利和先生をはじめ多くの先生方に大好評であり、楽しくお酒を賞味しつつ、参加した先生方の親睦が深められたのではないかと思います。
今大会は、プログラムの開催として 2 日間という非常にタイトなスケジュールではありましたが、基礎研究、臨床研究のどの演題も素晴らしい研究発表であり、今後の臨床応用および治療法の確立への可能性も期待できる興奮に満ちた素晴らしい大会でした。本大会開催にあたり、2日間という過密スケジュールもあり、学会事務局の不行き届きによりご迷惑をおかけした点も多々あるとは存じますが、関係者の先生方のご協力およびご助力のおかげで成功裡に終えることができました。この場をお借りし重ねて厚く御礼申し上げます。
2014 年は第 26 回総会を東京慈恵会医科大学の宮田久嗣教授が中心となり横浜市で開催されます。第 49 回日本アルコール・薬物医学会、日本アルコール関連問題学会、第 16 回国際嗜癖医学会(International Society of Addiction Medicine, ISAM)との合同学術総会になります。
会期は 2014 年 10 月 2 日(木)から 4 日(土)です。皆様のご参加をお願い申し上げます。
第 48 回日本アルコール・薬物医学会
会長 藤宮龍也先生
( 山口大学 医学部 法医学教室 教 授)
ポスター発表会場
シンポジウム会場
3. 年会報告:第 25 回学術総会を振り返る
平成 25 年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会
- テーマ:
- 飲酒と健康との調和を目指して
- 会 期:
- 2013 年 10 月 3 日(木)~5 日(土)
- 会 場:
- 岡山コンベンションセンター
- 会長:
- 第 48 回日本アルコール・薬物医学会
藤宮 龍也(山口大学医学部法医学教室 教授) - 第 25 回日本依存神経精神科学会
大熊 誠太郎(川崎医科大学薬理学教室 教授)
①前日の理事会。学会運営について濃密な話し合いがもたれた
②受付。当学会参加で精神科専門医制度ポイントも付与された
③ポスター発表会場。2 日間で 35 題演題の発表があった
④シンポジウムは 11 題。活発な議論が交わされた
⑤豪華な食事と日本酒に舌鼓の懇親会
⑥旬の鮮魚を目の前で調理
⑦柳田知司賞 受賞の表彰式
⑧CINP KL 若手優秀発表賞 受賞の表彰式
4. 2013 年度評議員会・総会議事録
総務委員会 委員長 宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学精神医学講座)
2013年10月5日(木)11:30-12:00に行われた評議員会・総会議事録は下記の通りとなります。
2013 年度 評議員会・総会 議事録
日 時 :2013 年 10 月 5 日(木) 11:30~12:00
会 場 :岡山コンベンションセンター 3F 301 会議室
大熊会長より、開会宣言がされた。会則により議長は会長が務める。
議 題
1.新理事長挨拶(齋藤理事長)
大熊議長が、昨年度の選挙で選出された新理事長として齋藤理事長を紹介した。
齋藤理事長より新理事長就任の挨拶があった。
2.各種委員会紹介(全委員会委員長)
大熊議長が、下記委員会委員長を紹介し、それぞれ挨拶があった。専門医制度委員会の米田委員長は欠席であった。
- 総務委員会(宮田委員長)
- 財務委員会(廣中委員長)
- 賞選考委員会(樋口委員長)
- 広報・編集委員会(池田委員長)
- 専門医制度委員会(米田委員長)
3.年会長挨拶(大熊年会長)
齋藤理事長が、大熊年会長を紹介した。大熊年会長より、本年度の年会の組織、概略などの説明があり、ご協力いただいた先生方へお礼が述べられた。
4.会務報告(宮田総務委員長)
宮田委員長が、会員数、企業賛助会員、本年度の理事会報告、CPDD 奨励賞、柳田賞、若手発表優秀賞(CINP KL2013)の受賞結果についてそれぞれ紹介した。ニューズレターの発刊状況と予定を報告した。
5.2012 年度決算報告 2013 年度予算案審議(廣中財務委員長)
廣中委員長が、2012 年度の決算が報告され、高田監事より監査報告がされた。
また、2013 年度予算案が説明され、検討の結果異議なく承認された。
6.賞選考委員会より柳田賞について、CINP KL 若手賞について
(樋口賞選考委員長)
樋口委員長より、賞の選考についての説明と、各賞の受賞者が報告された。また、いずれの賞にも多数の応募をお願いしたいとの発言があった。
- 柳田賞受賞者:
- 森 友久(星薬科大学 薬品毒性学教室)
- CPDD 受賞者:
- 該当なし
- CINP KL 若手優秀発表賞:
- 白坂知彦 (江別市立病院 神経精神科)
7.次期年会長挨拶(宮田次期会長)
- 日程:
- 2014 年 10 月 2 日~4 日
- 会場:
- パシフィコ横浜
- 合同学会:
- 日本アルコール薬物医学会、日本アルコール関連問題学会、当学会および国際嗜癖医学会(ISAM)の 4 学会。ISAM については、10 月 2 日~6 日までを会期としている。
- テーマ:
- 物質と行動のアディクション~多様な時代へのチャレンジ~
精神科や薬理学だけでなく、内科、法医学、公衆衛生学、心理、行政など多様な分野の力を結集し、オールジャパンで臨みたいと抱負を述べた。また、国際学会が同時開催となるため、皇室から秋篠宮ご夫妻もいらしていただけることが確定した。
8.次々期年会長選出(齋藤理事長)
齋藤理事長より、次々期年会長として神戸大学医学部の曽良一郎先生が推挙され、理事会にて承認されたと報告した。審議の結果、満場一致でこれを認めた。
曽良次々期会長より挨拶がなされた。
9.その他
齋藤理事長が、昨日の懇親会でも構想を報告したとおり、今後当学会は日本アルコール薬物医学会との統合を計画していると説明した。昨年、日本アルコール精神医学会とニコチン・薬物依存研究フォーラムが合併した際に作成した当学会の会則は、日本アルコール薬物医学会の会則を下敷きにしているため、その点では問題なく進められるだろうと発言した。
また今後は国際的に活躍する若手の育成や、日本の臨床、基礎両面にわたる研究成果を国際的に広めていくためにも国際委員会を組織することが両学会の理事会にて承認されたとして、当学会の国際委員会委員長である高田孝二先生を紹介した。高田先生より挨拶があった。
以上で予定の議題はすべて終了した。議長が会場に上記議題について、疑問や質問があるか呼びかけたが特になかった。よって全議題について満場一致で承認された。
以上
5. 2014 年度年会について
会長 宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授)
平成 26 年 10 月 2 日(木)~10 月 4 日(土)に、第 49 回日本アルコール・薬物医学会、第 36 回日本アルコール関連問題学会、第 26 回日本依存神経精神科学会の合同学術総会をパシフィコ横浜で開催させていただくこととなりました。
この 3 学会は日本のアルコール・薬物関連問題の中心となる学会であり、3 学会が合同で学術総会を開催するのは平成 24 年の札幌大会に次いで 2 回目になります。
学会のテーマは、最近の依存の概念が従来のアルコールや覚醒剤などの精神作用物質から、ギャンブルやインターネットなどの行動プロセスに広がっていることから「物質と行動のアディクション~多様な時代へのチャレンジ~」とさせていただきました。このテーマは 21 世紀の依存の臨床や研究の方向性にかかわるものであり、いろいろな分野の方達が一緒に議論することはとても意義深いことと考えます。
一方で、アルコールは依然として大きな問題です。断酒が最終目標であるとしても、その目標を達成するために harm reduction(節酒)をどのように活用するかはもっと議論が必要ですし、アルコール健康障害対策基本法を中心とした立法府や行政への学会のかかわり、うつ病や自殺予防なども重要な課題です。脱法ハーブはさらに大きな社会問題になっていきそうです。一方で、嗜好品科学しての視点からの健康の増進、予防医学も 21 世紀のテーマとして重要と考えます。精神医学、内科学、薬理学、法医学、病理学、公衆衛生学、心理学、さらに依存臨床の最前線の方達が一緒に議論し、考えることができる場になればと希望しています。
また、本学会は、国際嗜癖医学会( International Society of Addiction Medicine:ISAM、樋口 進会長、会期:10 月 2 日から 6 日の5 日間)との合同で開催されます。ISAM は臨床指向の強い学会ですので、海外の依存にかかわる臨床医の考え方を知り、意見交換ができる良い機会ではないかと思います。このため、ISAM と国内学会のジョイント・シンポジウムも数多く企画しています。
横浜は始めて訪れるビギナーの方でも、何回も経験されているリピーターの方でも楽しめる街です。昼間、学会で刺激された脳を異国情緒豊かな街の雰囲気で癒していただければと思います。
明日からの臨床や研究に役立つ魅力的な講演やシンポジウムも数多く企画しております。どうぞ、周囲の方をお誘いいただき、一人でも多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第 49 回日本アルコール・薬物医学会
会長 松下幸生
(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 副院長)
第 36 回日本アルコール関連問題学会
会長 成瀬暢也
(埼玉県立精神医療センター 副院長)
第 26 回日本依存神経精神科学会
会長 宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学精神医学講座 教授)
第 15 回国際嗜癖医学会
会長 樋口 進
(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 院長)
1)開催概要
平成 26 年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会
- テーマ:
- 物質と行動のアディクション~多様な時代へのチャレンジ~
- 会 期:
- 平成 26 年 10 月 2 日(木)~10 月 4 日(土)
- 会 場:
- パシフィコ横浜会議センター
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい 1-1-1 - TEL:
- 045-221-2155
- HP:
- http://www.pacifico.co.jp/
2)運営事務局:株式会社コングレ
〒102-8481 東京都千代田区麹町 5-1 弘済会館ビル
TEL:03-5216-5318
FAX:03-5216-5552
E-mail:addrs2014@congre.co.jp
HP:http://www.congre.co.jp/addrs2014/
なお、年会ホームページ、演題募集期間、事前参加申し込みなどは、決まり次第ご連絡申し上げます。
※同封のチラシもぜひご覧ください。
6. 学会印象記:CINP KL
(国際神経精神薬理学会 イン クアラルンプール)
(山梨大学医学部精神神経医学・臨床倫理学講座)
2013年10月1日より3日まで、マレーシア・クアラルンプールにおいて国際神経精神薬理学会CINPであり、依存に特化したSpecial Congress on Addiction and Mental HealthがIan Everall教授を会長として開催されました。
最近では日本でも秋の訪れが遅くなっていますが、常夏のマレーシアではなおさらのんびり涼みたいと思える気候のなか、近代的かつ快適なコンベンションセンターにて依存研究における熱い思いと先進の内容を楽しめました。また、参加者同士が顔見知りであることが多く、研究者仲間の端にいるだけの私でもフレンドリーかつアットホームな雰囲気を感じられる会議でした。主催者であるオーストラリア、開催地であるマレーシア、それに日本と韓国からの研究発表が大部分であり、やや参加者の地域に偏りのある会議でした。
しかし、9つのシンポジウム、5つの基調講演に加えて特別講演とポスター発表があり、充実した会議であったと思います。アルコールを始めとした物質依存についてのヒト遺伝子を含めた分子メカニズムの解析、動物の薬理行動研究など基礎研究と臨床研究は多岐に渡りました。加えて、昨今のインターネット依存について樋口進先生のご講演があり、各国からフロアあるいはロビーにて質問が出るなど、この問題の深刻さは世界的に解決が望まれる重要なテーマであることを再認識いたしました。
実は私事ではございますが、本会議のプログラム変更の余波あるいは激震を受け、出発前夜に「シンポジウムで講演不可という研究者人生最大のトラブル」との不安を背負いながらの会議参加でした。
大会前日である9月30日のクアラルンプール空港では、齋藤利和教授、樋口進院長、池田和隆先生と、私のこれまでの研究生活を支えていただいた先生方にお会いすることができ、早速にご相談をさせていただきました。先生方のご尽力を頂きまして、(私の元の座長も同じ状況に陥っていたという落ちがありましたが)なんとか無事に勤めを果たせた次第であり、この機会に深謝申し上げたいと存じます。
また、発表の機会を頂きました座長の廣中直行先生、鍋島俊隆教授にも心より感謝申し上げます。
Welcomeレセプションでは、地元少年グループによる民族音楽(左写真)を聴きながらオードブルとお酒を頂き、特に印象的だったのは布への彩色やハンマーで叩いて平らな金属プレートからボウルを作っていくなど体験型のイベントを楽しませていただいたことでした。
今回のCINP 会議は、直後の10月4日から岡山でアルコール・薬物依存関連学会合同学術総会が開催されるというタイトなスケジュールにあった先生方が多かったことなど、日程的にはいくつか残念なこともあったのですが、発表内容と研究者交流によって依存の奥深さと研究へのモチベーションを再認識できる貴重な体験となりました。日本依存神経精神科学会会員の皆様も、来年2014年6月にカナダ・バンクーバーにて開催される第29回CINP会議にはぜひ参加していただけたらと思います。
(懇親会での集合写真)
(目白大学人間学部 心理カウンセリング学科)
このたびマレーシアのクアラルンプールで 2013 年 10 月 1 日から 3 日まで開催された CINP の Special Congress on Addiction and Mental Health に参加の機会を得た。CINP がアディクションに関する special congress を開催するのは初めてのことである。会場は、かつては世界一の高さを誇ったペトロナス・ツインタワーの真横にある広大なコンベンションセンターだった。 3 日間の日程では、7 つのプレナリー、9 つのシンポジウムのほか、多数のワークショップ、口頭発表、ポスター発表が行われた。世界中から第一線で活躍する研究者や臨床家が集う中で、まさに最先端の研究に直に触れることのできる大変刺激的な毎日だった。
また、日本人の活躍が大変目立つ会議でもあった。プログラム委員にも名を連ねておられる札幌医科大学の齋藤利和先生によるプレナリー「Fetal Alcohol Spectrum Disorder」や東京都医学総合研究所の池田和隆先生によるプレナリー「Biology of Dependence」は大変盛況であった。また、シンポジウム「 Current Situations of Alcohol and Drug
Dependence in Asia」では、久里浜医療センターの樋口進先生、東京慈恵会医科大学の宮田久嗣先生が、それぞれギャンブルやインターネット依存、アルコール・薬物依存について我が国の状況を解説されており、まさに日本が「アディクション大国」であることを痛感させられる内容だった。
私自身はオーストラリア国立薬物アルコール研究センター所長のMichael Farrell 先生が座長を務める「ハーム・リダクション」に関するシンポジウムで発表を行った。我が国の薬物政策の問題点やハーム・リダクションに関する私自身の研究内容を発表した。
発表の後、フロアから「日本の薬物政策に大きな問題があるのはわかったが、アカデミズムは何ができるのか」という鋭い質問をもらった。「批判するだけではなく研究者として何ができるのか」という現実的な問いを突きつけられ、大きな刺激をもらったように感じられた。
実は、クアラルンプールは半年前にも訪問したばかりで、その際、マレーシアの薬物政策改革を見学するために、刑務所、国立治療施設、NGO などを視察した。マレーシアの薬物問題は我が国とは比較にならないほど深刻であるが、それだけに国を挙げての大々的な取り組みが行われている最中で、世界中から注目を集めている。
薬物問題に国境がないのと同じように、研究にも国境はない。日本人は語学面や奥ゆかしい性格から、国際舞台で活躍することに苦手意識を持たれる方も多いかもしれない。
しかし、マレーシアの薬物政策における目覚ましい発展、韓国でのインターネット依存に関する研究の発展等を目の当たりにすると、言葉や国民性のせいにしてはいられない。学会発表は「慣れ」の部分が大きい。最初はポスターからでも口頭発表からでも、とにかく参加をして研究成果を広く世界の研究者と分かち合う機会を持たれることをお勧めしたい。
それにしても、CINP の前後には岡山での日本アルコール薬物医学会など関連学会と重なって、1 週間で大阪、東京、クアラルンプール、岡山を周り、学会発表、シンポジウム、講演をするというこれまでにないハードスケジュールだった。
同じように、大変なスケジュールの先生もたくさんおられたことと思う。そうは言っても、緊張と疲労にも増して、それ以上の大きな達成感と爽快感を得ることができた。この場をお借りして、大会の開催にご尽力いただいた先生方に深くお礼を申し上げたい。
7. CINP KL2013 若手優秀発表賞を受賞して
~「CINP SpecialCongress on Addiction and Mental Health」参加報告記~
(江別市立病院 精神科/札幌医科大学 神経精神医学講座)
2013 年 10 月1~3日、マレーシア・クアラルンプールで開催された「CINP SpecialCongress on Addiction and Mental Health」に参加する機会を得たのでここに報告する。
本会は国際神経精神薬理学会(Collegium Internationale Neuro-Psychopharmacologicum:CINP)の地域分科会のひとつとして開催された。CINP Regional Chair のメルボルン大学 Ian Everall 教授のもと近年アジア諸国で重大な問題となりつつあるアディクションとメンタルヘルスの問題を重点におき、生物学的な内容から具体的な臨床プログラム、各国の公衆衛生問題まで幅広い分野での興味深い講演が多数行われた。
今回、筆者は、「STEM CELL APPROACH AS A PROMISING THERAPY FOR ALCOHOL SPECTRUM DISORDER 」という題でポスター発表を行った。胎児期のアルコール暴露によって、脳をはじめとした身体の各臓器の形成不全をきたし、成長障害、知能障害、顔面奇形などを呈する子供は、胎児性アルコールスペクトラム障害(FASD)という概念にまとめらえている。
これらの障害では「他者に共感し、心的状況に波長を合せて社会で良好な関係を築く能力」といわれる社会的認知力の欠如と、その基盤と考えられる、いわゆる「社会脳」の未成熟の問題が指摘されている。これら社会認知機能の障害による適応障害や重度のうつ状態を呈する症例が急増し重大な社会問題となっている一方、その病態生理は不明な点が多く、真に有効な治療法は未だ発見されていない。
そこであらたな治療法を探る目的として胎児へのアルコール暴露による精神疾患モデル動物を作成し、この動物の社会的認知障害が、神経幹細胞の経静脈的移植によって改善する可能性を示し、細胞移植療法が精神疾患に対する新たなアプローチとなり得ることを示唆した内容であった。ポスターセッションでは現地マレーシアの研究者ばかりでなく、韓国、インドネシア、台湾、タイランド、オーストラリア、多くのアジア、環太平洋各国からの参加者と研究手法や今度の臨床応用に向けての課題など多くのディスカッションを交えることができた。自身の実験、研究に関して海外から多面的な意見を伺う機会を得て、日本国内だけではなく世界を視野に物事を考えることの大切さを痛感した。
また今回のポスター発表に際して日本依存神経精神科学会より CINP KL2013 若手優秀発表賞を受賞させていただくことができた。今までご指導いただいた札幌医科大学神経精神医学講座 橋本恵理准教授、鵜飼渉講師ほか多くの先生方に感謝をするとともにこれからの研究活動、臨床業務の大きな励みとなった。
また、同時にシンポジウム演者としても発表の機会が与えられ、韓国カトリック大学 Dai Jin Kim 教授、マレーシア Sarawak 総合病院 Selva Rantnasingham 教 授両氏のオーガナイズによるシンポジウム「Addiction Non-Drug / Gambling(ギャンブルと非薬物によるアディクション)」に、タイ Srinakarinwirot 大学 Songpoon Benyakorn 先生、韓国ソウル大学の Jung-Seo Choi 先生らとともにシンポジストとして参加 し た 。そこで、「 Problematic Internet use: Prevalence,
characteristics and current issues.」と題して、近年注目をあびつつあるインターネットの問題使用についてアジア諸国での状況と日本国内との比較、今後の課題などを報告した。
インターネットの普及に伴い問題使用者は 271 万人と推定され、社会的な問題となっている。なかでも中高生、大学生に多く、学習障害やうつなどの併存症を引き起こす可能性が高いこと、推定 70 万人ともいわれるひきこもりの大きな原因となっていることなどを紹介した。この発表を通してインターネット依存の問題は日本国内だけにとどまらず、広くアジア全体で憂慮すべき事態に至っていること、韓国、タイなどは国家的なプロジェクトを通して早期発見、治療プログラムが試みられているなか、日本でもより抜本的な取り組みが求められていることなどを報告した。
これらの交流を通して世界的な視野での日本の現状を改めて認識し、国際学会に参加する意義を強く実感した。また、国や環境、文化が異なっていても、共通する問題に対して根本的な理解や認識を得る事が出来ると実感し、世界に向けて発信する事の面白さや重要性を強く認識した。
発表終了後に聴衆の各国の先生から温かい拍手を頂き充実した討議が行えたことは良い経験となった。
日中の白熱した議論のあと、アジア各地域の先生と、札幌医科大学齋藤利和教授、久里浜医療センター樋口進先生を始めとする日本の先生達を中心に屋台で繰り出し、現地の味に舌鼓をうちながら、諸先輩方から貴重なお話しをきくことができた。多くの友人達との交流と、諸先輩方からの貴重な勉強の機会をいただきとても充実した滞在となった。
今後もさらに、アジア全体のネットワークが強化され、有益な情報交換の場として発展がなされる事を期待する。
(諸先生方と現地の屋台にて)
8. 第 3 回 柳田知司賞を受賞して
(星薬科大学 薬品毒性学教室)
私は、星薬科大学薬学部を卒業し、星薬科大学大学院薬学研究科博士前期課程において、薬物弁別法および条件付け場所嗜好性試験などを用いた薬物依存の研究を行い、修了後、明治製菓薬品総合研究所において8年間、中枢作用薬に関する創薬ならびに開発薬理に携わってまいりました。
【私と依存研究】
薬物依存の研究を中心とした研究により学位師取得後、元来の希望でもあった教職の道を選び、2003 年 7 月より東京女子医科大学医学部の法医学教室の助手となり、法中毒を専門とし、司法解剖にも携わると同時に、教育活動を行なっておりました。
その後、准講師への昇格とほぼ同時に 2005 年からメリーランド州ボルチモアにあります米国 NIH 薬物乱用研究所への留学する機会を頂きました。留学前まで、げっ歯類を用いた行動薬理学による研究活動を行なってまいりましたが、留学中は、生化学ならびに分子生物学を用いてシャペロンタンパク質、特に、シグマ-1受容体シャペロンの神経の可塑性に与える影響ならびに細胞保護作用の機序の解明を5年間以上かけて研究してまいりました。
私自身、薬物依存に興味を持っておりましたが、今後はこれまでの経験を活かし、薬理学、法医学ならびに分子生物学の手法を駆使し、行動薬理学から分子生物学に亘る幅広い分野を総合的に考え、薬物依存という精神症状を限局した部位におけるタンパク相互作用の観点から証明していければと考えております。
特に、これまで柳田知司先生をはじめとする諸先生が培ってこられた薬物自己投与法、条件づけ場所嗜好性試験さらには薬物弁別法に応用することにより、神経科学的変化およびタンパク質の変化の側面から薬物依存を捉えるといった新たな方向を示し、タンパク質の変動がどのように神経科学ならびに行動薬理学的変化に影響を与えるかを検討し、さらには、培養細胞を用いて、タンパクの knockdown および過剰発現、部分欠損ならびに点変異などの分子生物学的手法を応用し、薬物依存という問題および原因を、タンパク質ならびにアミノ酸レベルでの解析までの pin down 形式で研究を行っていきたいと思っています。さらに、将来的には、自信が存在すると信じている渇望を調節しているタンパク質とその制御機構の解明が出来れば考えています。
【今後の目標 go the distance】
決して短くなかった海外生活において、海外で長い間頑張っている日本人の方とお会いする機会も多くありましたが、その度に、日本人の素晴らしさを再認識させられました。特に、日本人はどんな分野においてもその道を追求できる国民性を持っていることを感じ、私自身も私なりの道を信じ歩んで来たつもりでおります。今後は、日本人の心を持ち、日本だけでなく、世界をも見渡せる人材を育成していきたいと思っております。その為には、後輩達の見本となるべく自分自身さらに切磋琢磨し、本学会のさらなる発展のために誠心誠意尽くしていきたいと考えております。特に、自分の信条である go the distance(最後までやり通せ)を自ら示していく所存です。
まだまだ学ばねばならぬことが多い私ですが、私なりに精一杯やっていきたいと考えておりますので、今後とも諸先生方ならびに学会員の皆様のからのご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます。
(受賞講演会の様子)
9. 国際委員会発足
国際委員会 委員長 高田孝二
(帝京大学文学部)
【国際委員会創設について】
本委員会の目的、創設の経緯
理事会において、齋藤理事長より、本学会も、クアラルンプール(KL)での CINP(Collegium Internationale Neuro-Psychopharmacologicum) をはじめ、ISBRA(International Society for Biomedical Research on Alcoholism)、ISAM(International Society of Addiction Medicine)などを通じ、海外の学会との交流も盛んになっていること、また学会賞として、CPDD(College on Problems of Drug Dependence)への若手参加・発表の補助を行うなどしているが、臨床を含めた国際交流はなお活発とは言い難く、これをさらに促進し、本学会の国際的プレゼンスを高めかつ若手の育成を図るための国際委員会の設置の必要性・意義が述べられた。
当方はこれに全く異を唱えるものではなく、おおいにうなづきつつ拝聴していたところ、いきなり「先生いかがですか」と振られてひたすら戸惑い、まあ「内示」もなかったことから、齋藤先生のお手伝いならばと思い承知した。
ところが 1 日経過してどうやら当方が委員長であり、積極的に推進せねばならぬ立場であることが判明し、翌日大慌てで受賞講演から退席しようとする先生方を押しとどめ、第一回委員会を開き、以下について合意いただいた次第である。
本委員会の構成(abc 順)
樋口(賞選考委員長)、廣中(財務委員長)、池田(広報・編集委員長)、宮田(総務委員長)、齋藤(理事長)、高田(監事;本委員会委員長)、和田(理事)で構成することとした。
本委員会の活動
国内の関連学術活動および依存治療・予防の質を高めることを目的として、関連国際学会情報の周知、シンポジウムの企画・推進、学会間のジョイントシンポジウムの企画・開催などを行う。中心となる学会は、ISBRA およびその関連学会、および CPDD とするが、これに限定はされず、今回の KL CINP のような、単発的なものも含むものとする。
喫緊の活動:2014 年 10 月の ISAM 横浜年次学術集会でのスポンサードシンポジウムの企画、4 月 24~27 日の上海でのアルコールとアディクションに関する APSAAR(Asia Pacific Society for Alcohol and Addiction Research)の総会などについても、シンポジウムの企画などを積極的に検討する。
また、若手の育成・国際進出の補助、として、現在の CPDD 奨励賞に代わるものとして「国際学会参加奨励賞」(仮題)を設け、ISBRA 関連学会および CPDD への参加費補助(5 万円支給)とする方向が決定された。詳細については賞選考委員会にて検討し、応募資格としても、対象を広げる意味で、応募時に会員であること、年齢 40 歳くらいまで、などの案が検討されている。
当方の認識不足(理事長の「剛腕」に関する??)からどたばたした船出となったが、物質依存・非物質依存については、基礎・臨床とも「専門家」はなお少なく、この分野の将来を担う若手の育成こそは私を含めた現役年長者の使命であろう。
今回のどたばたも奇貨として、おおいに発展させるべく努力したい。諸先生のご協力、ご指導をお願いする次第である。
10. 賞選考委員会より
賞選考委員会委員長 樋口 進
(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
当学会では、下記の賞の募集をいたしております。
1.第4回柳田賞
柳田知司賞はニコチン、アルコール、薬物依存関連分野で独創的、飛躍的な業績をあげ、この領域における研究の進歩に大きく貢献した会員に授与いたします。2011 年度に第 1 回の受賞者を輩出し、2014 年度は第 4 回の選考を予定しております。締め切りは 2014 年 7 月 18(金)日です。
柳田知司賞の応募の詳細や応募書式については、本学会のホームページ(http://www.jspra.jp/index.html)をご覧ください。
また申請用紙等は、このたびの同封いたしましたので、ご覧ください。
2.国際学会参加奨励賞(若手研究者対象)
本学会では若手の育成を最重課題の一つにしており、すでに CPDD 奨励賞という若手研究者のための賞を設けております(2014 年度の応募は 12/20 締め切り。詳細は送付済みの募集要項または事務局まで)。
2014 年度は、新たに 2 つの国際学会について参加奨励賞を募集いたします。
①ISBRA 2014 参加奨励賞
ISBRA(International Society for Biomedical Research 国際アルコール医学生物学会)
2014 年は、米国シアトルで 6 月 21 日~25 日に行われます(RSA と共同開催)
②APSAAR 2014 参加奨励賞
APSAAR(Asia-Pacific Society for Alcohol and Addiction Research、アジア・太平洋アルコール嗜癖学会)
2014 年は、第 3 回大会が上海で、4 月 24 日~27 日に行われます。
【国際学会参加奨励賞①および②の応募資格】
- 1)40 歳以下または博士号取得 5 年以内のいずれか
- 2)応募時に当学会の会員であり、薬物依存研究に従事する者。基礎、臨床を問わない
- 3)2014 年度の ISBRA または APSAAR でポスター等の研究発表を行う予定の者
- 4)本学会で研究発表実績がある者
【優秀発表賞の内容】
- 1)表彰:年会にて奨励賞表彰状を授与する
- 2)副賞:¥50,000 とする
- 3)報告:帰国後直近に発刊するニューズレターにおいて、発表内容等を報告する
【募集人数】
若干名
【申請手続き】
①ISBRA 2014 または②APSAAR 2014 参加奨励賞に応募を希望する場合は、2014 年 1 月 31 日(金)までに、それぞれ下記の書類(書式自由)を事務局宛に郵送・FAX・Eメールいずれかの方法で提出のこと。
- 1)参加奨励賞申請書:
- ①②どちらの参加奨励賞への応募か記入の後、申請年月日、氏名、生年月日、所属機関名、職、資格(医師、薬剤師、学位など)機関住所、Tel、E-mail、略歴(大卒以後)、主な研究発表歴(題名・会名。本学会を含む)、自宅住所、電話番号、E-mail)。
- 2)指導責任者の推薦書:
- 被推薦者名、推薦理由(200 字程度、A4 1 枚までであれば多くてもかまわない)、推薦年月日、推薦者氏名、所属・職、署名)。
- 3)出題の抄録:
- 出題抄録の写し。
- 4)送付先:
- 日本依存神経精神科学会事務局
【選考および結果の通知】
選考委員会での選考結果および ISBRA2014 ま た は APSAAR2014 のNotification of Acceptance の本人宛 e-mail に基づく。
多数の応募をお待ちしております。
11. アル法関連最新情報
アルコール健康障害対策基本法、制定される!基本計画策定に向けた学会の課題!
猪野亜朗((医)山下会 かすみがうらクリニック)
齋藤利和(札幌医科大学医学部神経精神医学講座)
堀井茂男((財)慈圭会 慈圭病院)
12 月 7 日午前 0 時 25 分、上記基本法は参議院本会議において満場一致で可決成立した。
米国では既に 1970 年に基本法(ヒューズ法)が採択され、NIAAA の創設などの対策が行われてきたが、日本では遅れること 40 有余年にしてようやく基本法が制定された。
岡山学会以降も、当学会が加入するアル法ネットは精力的に活動し、成立に至ったが、アル法ネットと議員連盟と国会の3者の歴史的な動きをここに報告する。
1.成立までの動き
- 10 月 3 日:
- 岡山学会において、アル法ネット幹事に当学会から齋藤理事長を送り出すこと、アル法ネットに学会として寄金をすることを決定。
- 10 月 9 日:
- 衆議院議員会館において、アルコール問題議員連盟総会が行われ、アル法ネットは傍聴参加する。総会にて、基本法の主管省庁は基本法が軌道に乗るまで内閣府、その後、厚生労働省に移管すること、アルコール健康障害対策関係者会議を当初の案通り設置することを確認した。当日、FAS に関する2つの講演(Edward Riley 氏と樋口進氏)が行われた。
- 10 月 24 日:
- 議連総会は最終的にアルコール健康障害対策基本法を決定し、「未定稿」の文字が消え、正式の法案となった。
- 11 月 7 日:
- 議連総会で全党合意を確認。
- 11 月 17 日:
- 全断連沖縄大会において、6 人の国会議員が「基本法が成立したら、その付託に応えて頑張って欲しい」と挨拶。
- 11 月 20 日:
- 衆議院内閣委員会が採択。
- 11 月 21 日:
- 衆議院本会議を通過する。
- 12 月 6 日:
- 参議院内閣委員会で可決。
- 12 月 7 日:
- 午前 0 時 25 分、参議院本会議にて満場一致で可決成立する。
秘密保護法案で大揺れに揺れる国会情勢に基本法は翻弄されたが、ついに基本法は成立し、1922 年(大正 11 年)成立した未成年者飲酒禁止法以来の 91 年ぶりのアルコール関連法案となった。
この間の取り組みとしては、全日本断酒連盟を中心に、アルコール問題議員連盟への加入(現在 91 人)、基本法への賛同議員を増やす取り組み(現在 15 人)、また、県議会・市議会から国への「基本法制定を求める意見書」提出の働きかけ(北海道、愛知、奈良、和歌山、愛媛、廣島、鳥取、島根、山口、大分、三重の 11 県、名古屋市が提出済み)を行ってきた。
また、日本消化器病学会、日本肝臓病学会、日本内科学会が賛同を表明し、画期的な「連携」が出来つつあり、また、関係者、当事者、家族、市民の参加による「基本法の制定を願う集い」が 5 月 11 日に名古屋、9月 1 日に大阪、12 月 8 日に岡山で開催され、社会的アピールを重ねてきた。
基本法は理念法なので、対策の枠組みが決まったが、今後、学会としては対策の「中味」が基本計画に反映されるように取り組む必要がある。
2.アルコール健康障害対策基本法の内容について
(1)基本法の要点
- 国民の健康を保護するとともに安心して暮らすことのできる社会を実現していく。
- 対策を総合的かつ計画的に推進する。
- 健康障害の発生、進行、再発予防に取り組む。
- 当事者と家族を支援していく。
- アルコール健康障害対策と関連問題対策を有機的に連携させる。
- 地域の状況に応じた施策を進める。
- 国、地方公共団体、事業者、国民、医師等、健康増進事業実施者の責務を規定する。
- 法制上、財政上、税制上の措置を講ずる。
- アルコール関連問題啓発週間を 11 月 10 日から 16 日として、国と地方公共団体が事業を行う。
(2)アルコール健康障害対策推進基本計
- 2 年以内に計画を策定する。
- 具体的な目標と達成時期を定める。
- 20 人以内の関係省庁の職員にて作成する。
- 5 年毎に見直しを行う。
(3)2 つの会議
① アルコール健康障害対策推進会議
- 内閣府、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、警察庁その他の関係行政機関の職員で構成する。
- アルコール健康障害対策関係者会議の意見を聴くもの
② アルコール健康障害対策関係者会議
- 20 人以内で組織する。
- アルコール関連問題に関し専門的知識を有する者並びにアルコール健康障害を有し、又は有した者及びその家族を代表するもので構成する。
(4)都道府県のアルコール健康障害対策推進計画
- 都道府県の実情に即した計画を策定する。
- 少なくとも 5 年毎に見直しを行う。
(5)基本的施策
- 教育の振興など
- 不適切な飲酒の誘引の防止
- 健康診断及び保健指導
- アルコール健康障害に係る医療の充実等
- アルコール健康障害に関連した飲酒運転などをした者に対する指導など
- 相談支援等
- 社会復帰の支援
- 民間団体の活動に対する支援
- 人材の確保
- 調査研究の推進など
3.学会が取り組む課題
基本法に沿って、下記の取り組みが求められると考える。
- アルコール健康障害対策関係者会議へ学会は代表を派遣することになろう。
- 会員は都道府県アルコール健康障害対策推進計画策定に参画する必要があろう。
- 調査研究の推進へ参画する。
- 会員は一層のエビデンスの構築と関係者会議への発信を求められる。
- 対策のための人材養成のために、会員の参画が求められる。
- アルコール・薬物治療専門医制度の再検討が必要となろう。
以上、基本法が制定されたことにより、学会、学会員の臨床及び研究活動は今後益々社会的に認知され、社会的貢献を期待されると確信している。
最後に、日本のアルコール医療・医学を担ってきた諸先輩医師は 1979 年にアルコール問題総合対策基本法の成立を期したが、無念の涙を飲まれた。ようやく我々の世代の学会が基本法制定に寄与できたことを、苦労をなれてきた諸先輩医師に報告したいと思う。
12. 書評
新健康教育シリーズエビデンスにもとづいた新・アルコールの害(最新改定版)
(株)少年写真新聞社(東京)
著者 樋口 進
((独)久里浜医療センター院長
WHO アルコール関連問題研究・研修協力センター長)
書評:宮田久嗣
(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)
目からウロコという感じであった。本書はカラー印刷で、小学校の理科の参考書のようなきれいな仕上がりになっている。実際、小学校の高学年以上を対象にしているといってよい。
つまり、予防教育で一番大切な、これから大人になる人達を対象に、アルコールの害を広範囲に、わかりやすく、楽しいイラストを多用して解説している。
しかし、内容はかなり専門的である。第 1 章では未成年者に対するアルコールの害を、アルコールの脳への影響とアルコールの分解のプロセス(薬物動態)にわたって、基礎的な説明から最先端の研究成果まで、理科の授業にようにわかりやすく、きれいな図や写真で説明している。
たとえば、脳の神経細胞の年齢にともなう成長と変化が 1 頁でこれほどわかりやすく書かれたものはほかに見たことがない。
第 2 章は、アルコールの健康障害として、脳から全身の臓器、代謝障害、骨やホルモンへの影響、妊婦や授乳の問題などが解説されている。普通は、これらの障害が網羅的に書かれていると、途中で疲れて読むのをやめてしまうか、辞書のように必要なところたけ読むということが多いが、本書は、写真やイラストが多く、小学生の図鑑のような書き方なので、次は何だろうと興味がわき簡単に読めてしまう。
第 3 章は、アルコールによる酩酊や毒性のメカニズムが動物実験の結果から解説されている。この部分は、東京福祉大学短期大学教授の栗原久先生がラットの写真を提供されたのであろうが、アルコールの種々の行動毒性がビジュアル的に説得力をもって解説されている。出色なのは、アルコールの毒性(タンパク凝固作用)を「まぐろの赤身実験」と「鶏卵の実験」で証明する解説である。
まさに、楽しい実験をしながら自然にアルコールの作用(毒性)を理解することができる。末尾にトピックスとして、飲酒と交通事故の問題が解説してあることは、未成年の健康教育としてはとても意義深いものである。
また、いたずらにアルコールの害を主張するのではなく、どのような飲酒予防教育が効果的であるのかエビデンスに基づいて解説してある部分は、教師や飲酒予防活動にかかわる者にもとても参考になる。
本書は 72 頁よりなるが、15 分ほどで流し読みできてしまう。それでいて、網羅的な知識を習得できてしまう。
未成年の方達やそのご家族、教育関係者だけでなく、問題飲酒者、家族会、医療関係者、精神保健にかかわる方達などもぜひ一読して、全般的理解を深め、あるいは、アルコールの害を説明するうえでの参考にしていただきたい貴重な一冊である。
13. 施設紹介:独立行政法人 国立病院機講 肥前精神医療センター
(肥前精神医療センター)
【当院の歩み】
当院は昭和 20 年に軍事保護院傷痍軍人肥前療養所として開設されたのち厚労省に移管され、平成 16 年に独法化するまで長く「肥前療養所」の名で知られてきた。とくに、その名を残したのは昭和 30 年代前半に当時所長であった伊藤正雄先生が先頭に立って推進された「解放管理」である。
世界的に見てもイギリス精神病院の解放運動が昭和 31 年に始まっている中で、画期的かつ先駆的なことであった。当時、”The most important person in this hospital is the patient”のスローガンのもとに、
- 1)すべての患者の正当な権利擁護
- 2)患者・治療者間の治療的関係の重視
- 3)拘束的、強制的なものの排除
- 4)入院は必要最少限度、早期退院
などを謳って患者中心の精神科医療が進められ、当時入院患者の 70~
80%が自由入院(現在の任意入院)であったとされている。
1987 年に施行された精神保健法や 1995 年に改正された現行の精神保健福祉法の理念は、法施行 30 年前にすでに当院では実践されていたと言える。
その後、昭和 50 年頃から始まる入院の短期化、精神科医療の専門分化へと進展する。当院の歴史は、その恵まれない立地条件を克服するために、常に精神科医療の中で先駆的な試みを展開してきた歩みでもある。
【アルコール・薬物病棟のこれまで】
精神科医療の専門分化の流れの中で、当院のアルコール依存症治療は昭和 58 年に久里浜病院研修会で教えを受けた村上優先生(現国立病院機構琉球病院院長)が始められ、その礎を作られた。
平成 7 年頃には、九州に薬物依存回復者施設の DARC が発足したのを機にアルコール病棟からアルコール・薬物病棟に転換され、薬物依存症患者に対しても ARP に倣って DRP(Drug Dependence Rehabilitation Program)というプログラム治療が始められた。
薬物依存症治療は任意入院で、約 4 週間のプログラムで行っているが、当院の患者は主に教育機関や DARC との連携の中で始められたこともあって、患者の年齢は比較的若く、多くは 20 歳代までである。
また、多くは依存の治療を求めてくるものであり、急性期に一過性の幻覚を認める患者はあっても残遺性の精神病症状が主体である患者は比較的少ない。若い患者に数か月単位のプログラムとして入院時に契約することは難しく、4 週間を 1 クールとして 3 クールまでの延長が可能と説明することによって、任意の治療系契約が可能となっている。アルコールと薬物依存で別々のプログラムで運営される時間も多いが、一部共通したプログラムも行われている。
最近では、治療プログラムに認知行動療法やトランス・セオリティカル・モデル(TTM)の理論モデルに基づく「変化のステージミーティング」などを取り入れている。
こうした当院での治療実践は、平成 15 年から毎年 12 月頃に 3 日間で開催される「肥前アルコール・薬物関連問題研修会」の中で紹介している。また、平成 25 年からは 7 月にアルコール問題の早期介入のための「ブリーフ・インターベンション&HAPPY プログラム研修会」を行っている。
【福岡病院サテライトクリニックの試み】
精神科病院に治療を求めてくるアルコール依存症患者は受診時にはすでに重症でなかなか回復も困難な患者が多い。早期介入のためには我々が患者の近くに出向く必要があるという考えから、同じ国立病院機構の病院で、小児科、呼吸器内科、外科が主な診療科である福岡病院の中にアルコール専門のサテライトクリニックを 2009 年の 2 月に開設した。
開設当初、新聞の1面記事になったこともあって診察予約が 3 か月待ちという状況もあった。このサテライトクリニックは、精神科病院の外に開いたということ同時に、当初から治療目標の一つに節酒を掲げているという特徴を持つ。こうした試みによって、今まで介入することのなかった軽症アルコール依存症や有害な使用の患者への早期介入が可能になったものと考えている。
(平成 25 年 4 月医局集合写真)
14. DSM-5 をめぐる話題(その 2)
(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)
筆者は日本精神神経学会の精神科の用語に関する委員会に、依存関連学会からのメンバーとして参加していることから、今回の記事の依頼をいただいたものと考える。DSM-5 の発表から半年ほど経過して、その改定に関するいろいろな著書を目にするようになった。この原稿では、DSM-5 の依存の章における変更と課題について考えてみたい。
最大の変更点は、依存 dependence という用語に代わって物質使用障害 Substance Use Disorders を採用したことである。第二の変更点は、非物質関連障害 Non-Substance-Related Disorders としてギャンブル障害 Gambling Disorder が新たに加わったことであり、インターネット・ゲーム障害 Internet Gaming Disorder も、今後組み入れられる候補に挙げられている。以上の二点は、歴史的な変更といえる。
その他、大麻とカフェインの離脱の診断基準が新たに追加された。タバコについては、ニコチン依存からタバコ使用障害に診断名が変更になったと同時に、乱用の項目が追加された。これは、DSM-5 の物質使用障害の診断項目は依存と乱用を合わせて作られていることから、タバコ使用障害になったことで自動的に乱用の項目が追加されたことによる。
一方、多物質関連障害 Polysubstance-Related Disorders のカテゴリーが削除された。ほかにも、アンフェタミンとコカインが精神刺激薬として同一のカテゴリーに分類されるようになり、フェンシクリジンが幻覚薬のカテゴリーに組み入れられるなどの変更があるが、これらの変更は薬理学的な視点からは妥当なものといえる。
その他、DSM-5 全体を通して章立ての順番が大幅に入れ替えられた。
この変更には、発達におけるライフスパンの観点が反映されていることから、神経発達障害 Neurodevelopmental Disorders が筆頭に位置づけられ、物質関連と嗜癖性障害”は後半部分に移されている。
診断項目の附記として、DSM-5 では物質ごとに重症度分類(2~3 項目が軽症、4~5 項目が中等症、6 項目以上が重症)を特定 specify することが求められている。逆に、生理学的依存(耐性 tolerance か離脱withdrawal)の有無の記載がなくなった。
しかし、DSM-5 ではやや理念が先行し、矛盾のない理論構築や精密な診断基準の作成が不十分である(あるいは間に合わなかった)印象を受ける。その意味では、今後も変更を加えるなかで完成度を高めていくものと考えられる。したがって、あまり目くじらをたててあら捜しするよりは、余裕をもって見守る姿勢が大切と考えるが、DSM の影響力は大きいため、どうしても触れておいた方が良いと思う点をあげてみる。
1.DSM-5 は、なぜ物質依存を削除したのか
DSM-5 で依存という用語が採用されなかったことから、あたかも、依存という概念が間違っていたり、時代遅れであるように受け取るむきがあるとしたら、それは誤解である。DSM-5 の作業部会が問題にしているものは、DSM-IV-TR の物質依存の診断基準であり、他の機関(WHO など)が定義した物質依存の概念を否定しているわけではない。具体的には、ベンゾジアゼピン系薬物や副腎皮質ステロイドによって治療を受けていて、治療の過程でこれらの薬物によって耐性や離脱が生じ、用量も増えていった場合、DSM-IV-TR の診断基準では、7 項目のなかで(1)の「耐性」、(2)の「離脱」、(3)の「当初の思惑よりも、摂取量が増えたり、長期間使用する」の 3 項目を満たせば物質依存に該当することから、そのような患者を DSM-IV-TR では物質依存と診断してしまう問題がある。この点を解決するために、DSM-5 では、「医学的管理下で処方された薬物によって生じた耐性と離脱が唯一の症状である場合には、物質使用障害とは診断しない」と明記している。これによって、治療で使用されている鎮痛薬、抗うつ薬(SSRI など)、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬物)、β-ブロッカー、副腎皮質ステロイドなどが耐性や離脱を生じるからといって、それらすべてを依存として捉えてしまう問題は回避される。しかし、この問題は、あくまで脚注で対応できる課題であって、従来からの物質依存の診断概念自体を否定する理由にはならない。
2.DSM-5 の物質使用障害と従来の物質依存の違い
それでは、WHO の Expert Committee(1969 年)に代表される物質依存の概念と DSM-5 の物質使用障害の違いは何であろうか。最大の違いは、依存ではその定義に社会的機能障害を含むのか含まないのか明確にしていないのに対して、使用障害では社会的機能障害を積極的に含むことである。
DSM-5 で物質依存の診断基準を使用することが困難であったもう一つの理由は、ギャンブル障害を組み入れたことである。科学的に検証されてきた依存という概念を、ギャンブルなどの行動嗜癖にそのまま用いることが難しいことから、DSM-5 では嗜癖 addiction という用語を採用したものと考えられる。
3.DSM-5 の嗜癖に対する考え方
嗜癖 addiction という用語に対する DSM-5 の立場は矛盾に満ちているといえる。DSM-5 のテキストブックによると、依存は耐性と離脱を重視しているのに対して、嗜癖は、より広い意味で物質の強迫的使用に関連した問題に用いられる(DSM-5 の序文の p.xlii)。一方で、嗜癖という用語は、世俗的に使われることが多く(DSM-5 の p.796)、定義があいまいで、否定的な意味合いがあることから、DSM-5 の診断用語には採用しなかったとしている(DSM-5 の p.485)。それにもかかわらず、章全体のタイトル「物質関連と嗜癖性障害 Substance-Related and Addictive Disorders」に用いられているのはどういうわけであろうか。
その理由として最も考えられることは、ギャンブルなどの行動嗜癖では、使用障害という用語(もしくは概念)を用いることが困難であったからではないだろうか。事実、9 種類の物質に関する使用障害の診断基準は、幻覚薬と吸入剤で離脱がない点を除けばすべて共通している。これに対して、ギャンブル障害やインターネット・ゲーム障害では異なる診断項目となっている。すなわち、ギャンブルなどでは使用障害の診断基準をそのまま利用できない一方で、それに代わる診断項目が確立できていないことから、DSM-5 の作業部会では嗜癖という用語を一時的に残すという選択をしたのではないかと考えられる。その点では、今後、物質と行動の両者に使用できる新たな疾病概念を作っていくのかどうかが DSM の課題と考えられる。
以上、限られた紙面で述べたため(といってもかなり字数オーバーになってしまったが)、うまく伝わらなかった部分や、筆者の理解不足による誤解もあるかもしれない。いろいろとご意見、ご批判をいただければ幸いである。
15. 学会からのお知らせ・連絡事項
1.総務委員会より
【ご入退会・変更等手続きについて】
周囲に当学会へご興味をお持ちの方がいらっしゃっいましたら、是非、本学会へのご入会をお勧めください。
1)入会について
入会は本誌 18 ページ(正会員用)の「入会申込書」またはホームページ掲載の入会申込書をダウンロードし、必要事項をご記入の上、下記事務局まで郵送・FAX・Eメール添付等でお申込みください。担当理事の審査後、ご請求書を審査から 1 か月程度でお送りいたします。
〒100-0003
東京都千代田区一ツ橋 1-1-1
パレスサイドビル9階 (株)毎日学術フォーラム内
TEL.03-6267-4550 FAX.03-6267-4555
E-mail: jfndds@mynavi.jp
事務局営業時間:平日 10:00~17:00
※土日祝、年末年始(今年度は 12/28~2014 年 1 月 5 日まで。6 日より営業)、学術集会中はお休みいたします。
2)変更について
ご所属、ご職名などに変更がありましたら、本誌 17 ページの「住所等変更連絡用紙」またはホームページ掲載の同用紙をダウンロードし、必要事項をご記入の上、事務局までご連絡ください。
3)退会について
上記の事務局まで FAX、E-mail、郵送等文書に残る手段で、①当学会名、②退会される会員のフルネーム、③○○年度をもって退会するとの一文、の 3 点をご連絡ください。
2.事務局から
【啓発用リーフレットについて】
当学会では「あなたの飲酒が心配です」とした、啓発用のリーフレットを 1 部 30 円で下記印刷所に販売委託をしております。ご希望の方は下記までご連絡ください。
- 会社名 :畠山印刷株式会社
- 所在地 :三重県四日市市西浦 2 丁目 13-20
- 電 話 :059-351-2711(代)
- FAX :059-351-5340
- Email :hpc-ltd@cty-net.ne.jp
【柳田賞醵金について】
本学会は本学会最高賞である「柳田賞」を末永く継続させるため、本賞の賞金および副賞に使用する醵金を募集しております。一口 10,000 円からお受けさせて頂いています。「柳田賞」設立の趣旨をご理解・ご賛同していただける方は、ぜひ事務局までご一報ください。
3.広報・編集委員会より
【『JSND NEWS Letter』広告について】
『JSND NEWS Letter』では、広告を募集しております。ご希望の方は、事務局までご一報いただけますようお願いいたします。
また会員の方からの、広告掲載企業様等のご紹介も大歓迎です。
表 4 | 4 色 | 30,000 円 |
表 3 | 4 色 | 20,000 円 |
後付 1 ページ | 4 色 | 18,000 円 |
半ページ | 4 色 | 10,000 円 |
※1 ページ 天地 260 mm×左右 170 mm
※1/2 ページ 天地 125 mm×左右 170 mm