日本アルコール医学会設立経緯

1960年頃から京都府立医科大学の小片重男教授(法医学)がアルコールの医学、関連科学(心理学、社会学、犯罪学、醸造学等)を総合して発表と討論の場を作る学会設立の構想を法医学会のアルコール研究者の方々に諮っていました。
1964年8月10日、信州大学の赤羽治郎教授(薬理学)からこのような構想への賛意が寄せられました。
1964年10月29日 広島大学の小沼十寸穂教授(精神医学)からも賛意が寄せられ、精神神経学会への働きかけが始まりました。
1965年8月28日 京都府立医科大学会議室において第1回発起人会が行われ、学会名、会則、運営などについて審議し、会の名称を「日本アルコール医学会」とすることや、会則の大綱などが定まりました。
1965年9月9日 来日中のDavid LESTER博士(Professor of Chemistry, Rutgers
The State University)を京都に招いて歓迎と討論の会が開かれ、会の英語名を Japanese Medical Society of Alcohol Studies とすることが示唆されました。
1965年10月17日 第2回発起人会が開かれました。
1965年11月3日 文化の日を期して日本アルコール医学会が発足しました。その設立趣意書には以下のように書かれています(原文のまま)。

  1. 近時、わが国の飲酒状況を顧みると、飲酒量の増加のみならず、濃度の高いアルコール飲料の使用量が飛躍的に上昇し、飲酒の年齢的階層の変動或いは女性飲酒者の増加が著明となりつゝある。
    その影響は、交通事故、労働力、精神衛生及び母児衛生等の多方面に反映されつゝあり、これらの対策を考慮しなければならない。
  2. これら急性及び慢性アルコール中毒の予防、治療或いはリハビリテイションといったアルコールの有害面の諸問題に相反して、アルコールの栄養学的或いは活力増進的効果の面の充分なる研究の要請に答える。
  3. 翻ってわが国のアルコールに関する医学的研究は古くから行われ、現在高い水準にありながら、外国のアルコール研究会との交流が稀れであるために、諸外国においてその真価に対する認識が乏しい憾みがある。
  4. かような観点から、基礎医学、社会医学、臨床医学及び交通医学、更には医学以外の関連諸科学、例えば、心理学、社会学、犯罪学、人間工学および醸造学等を総合して研究発表と討論の場を作り、研究の発展を図り、社会福祉の向上につくす。
  5. 機関誌「アルコール研究」(Japanese Journal of Studies on Alcohol)を発行し、進んで本学会を通じて広く世界のアルコール医学会との交流の道を拓く。
  6. 右のとおり、「如何にしたならば安心して酒を楽しみつゝ健康を増進することができるか」を研究し、諸外国のアルコール研究学会との交流を旺んにすることを目的とし、酒を嗜むと嗜まぬとを問わず、所属する研究領域の如何を越え、縦横の連携を緊密にし、人類の福祉に貢献するという趣旨の下に「日本アルコール医学会」を設立した。

1966年5月31日~6月1日、京都府立勤労会館にて第1回日本アルコール医学会総会が開催されました。
総会では創立総会および発会式が行われ、京都府立医科大学の額田粲教授による設立経過報告に続いて若松栄一(厚生省医務局長)、平沢興(京都大学名誉教授)、坂口謹一郎(東京大学名誉教授)、中村文雄(京都府立医科大学学長)の各氏から祝辞が寄せられました。
この総会には信州大学の赤羽治郎教授、広島大学の小沼十寸穂教授による特別講演および54題の一般講演がありました。

「アルコール研究」(現、日本アルコール・薬物医学会雑誌)第1巻第1号の記事に基づいて廣中が作成しました。なお、所属は当時のものです。